ひとだま
小学校入学前後の頃だったと思う。
"ひとだま"を見たことがある。
ちょうど夏休みだったために家族で伊豆の別荘に来ていたときのことだ。
夜半から降り始めた雨は激しい雷雨を伴っていた。
別荘にはテレビが無かったので兄と将棋をしているとき、突然停電が起こり室内は真っ暗になった。
私は兄にしがみつきながら両親の部屋へと逃げ込んだ。
父はまたヒューズが飛んだのではないかと調べていたが、直に戻ると周りの家の電気が消えているので停電だろうと語ってくれた。
扇風機も止まったままなので、仕方なく蒸し暑い将棋の部屋に一人で戻り、窓を開けて頬杖をしながら雨の降る外の暗い景色を何気なく眺めていた。
道路の街灯も全て消えており、人通りは全くない。
雨のせいか外気は少し涼やかだ。
ただ、雨が降りしきる音だけが暗闇の中から聞こえてきていた。
と、通り向こうに明かりが一つだけ見える。
電信柱の上の方だ。木製の電柱がうっすらと照らし出されている。
街灯の傘が被って見えるので、一つだけ電気がついているように見えるのだ。
あそこだけ電池式なのだろうかと幼い頭で考えていたがどうもおかしい。
明かりが右に左に動いている。
人が持つにはあまりにも高さがある。
しばらく見ていたときに、ふとアレが"ひとだま"ではないかと気がついた。
初めて見た。
まるで電球の光のようではないか。
ふわりふわりと左右に揺れながら流れていく。
もうかなり向こうへ行ってしまっている。
私は慌てて兄と両親を呼びに行き、是非見て貰いたいモノがあると手を引いて連れてきた。
Canon EOS 5D MarkIII+EF24-70mm/4.0L IS USM
ひとだまが見えるよ!本物だよ!と火の玉のあった方を指さした。
兄は、どこだどこだと覗き込むがよく分からないらしい。
私は道路に出て近づけばまだ見えるはずだと、兄と一緒に暗い玄関へと向かった。
その時、突然母に「止めなさい!」と怒鳴られた。
不満の表情をしながら何故だと聞くと、母はああいうモノは興味本位で見に行くことは良くないものだと窘められた。
兄と不満を口にしながらもその時は諦めた。
あれから40年が経った。
兄はすっかり忘れてしまっているが、夜に雷雨が来るといつも思い出す。
あの夜以来、私は一度も火の玉は見ていない。
今ではプラズマが原因ではないかという説もある。
プラズマですか。
どうせなら目の前でしっかりと見ておきたかった。
未だに悔やまれる。
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コメント
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今まで、ひとだまを見た人の話を聞いたことがなかったので、とても興味深く読ませていただきました。
未知のものや怪奇なものを見たり感じたことがまーったくないので、一度くらい見てみたいものだなと思っています。
投稿: コニー | 2013年6月11日 (火) 01時27分
私の場合、目の前で見たわけで無く、距離がありましたからフーンという
感じでした。
実際に目前で見たらどうだったでしょう。
今見ることになったら、絶対に一眼レフ持ち出して記録に残します。
その場合は高感度撮影と長時間露出の二通りで攻めたいですね。
あ、あと動画も。
投稿: ちぇりた | 2013年6月11日 (火) 14時45分
プラズマは毎日見てますよ。
こう言った不可思議な現象に遭遇しないので、羨ましいです。
近い現象?なら、100m先に雷が落ちた瞬間を見たことでしょうか。
投稿: anko | 2013年6月11日 (火) 17時42分
それは恐ろしいですね。
私も山の雷で怖い思いをしましたので、遠くでゴロゴロ聞こえたら速攻で
引き返します。
投稿: ちぇりた | 2013年6月11日 (火) 21時46分